見どころHighlight

※シーズン5第1話のネタバレが一部含まれています。
閲覧の際は十分にご注意ください。

09年春、「LOST」に新たな勲章がまたひとつ加わった。米放送界でエミー賞と並んで権威のある放送賞のひとつとして知られるピーボディ賞を受賞したのである。エンターテイメント色の強いエミー賞と比較して、ピーボディ賞は報道やドキュメンタリー番組に比重を置いていることから、「放送界のピューリッツァー賞」とも呼ばれている。同賞の発表が4月1日だったことから、「LOST」の製作総指揮のひとりであるカールトン・キューズはエイプリル・フールの冗談かと疑ったほどだという。

ピーボディ賞の選考委員会は、「LOST」に授賞した理由をこう説明する。

「ミステリアスな島を舞台に、飛行機事故の生存者たちを描くジャンル特定不可能な連続ドラマは、形而上学と量子力学とラブストーリーと手に汗握るアクションを見事に混ぜあわせることで、テレビ・フィクションのルールを書き換えた」

LOST」のファンならば、この講評に異存はないはずだ。無人だと思われた島にハッチが存在したり、偶然乗りあわせたと赤の他人たちが実は過去に交差していたり、と、「LOST」の物語は従来のドラマのパターンを打ち破った広がりを見せていく。視聴者にとってそれは、ようやく迷路の出口に辿りついたと思ったら、さらに大きな迷路に囲まれていることに気づかされるような感覚だ。しかも、振り返ってみると、自分が辿ったルートにいくつものヒントが隠されていたことに気づかされる。製作側は、場当たり的に謎を作っているのではなく、壮大にして詳細を究める物語世界を構築したうえで、情報を小出しにしているだけなのだ。そして、あらかじめ結末が定まった有限な物語だからこそ、製作側はシーズン6での放送終了を決定したのである。

シーズン5の「LOST」は、いよいよ佳境を迎える。今シーズンの特徴を一言で言い表すならば、ずばり「タイムトラベル」だ。これまでは島で進行するドラマに、登場人物の過去を描く「フラッシュバック」や、未来を描く「フラッシュフォワード」が挿入されてきた。しかし、シーズン5からは登場人物たちが時間旅行をすることになる。

タイムトラベルで明らかになるのは、「LOST」の真の主役といえる「島」の歴史である。ダニエル・ルッソーが所属していた「フランスの科学調査隊」や「ダーマ・イニシアチブ」、「他のものたち」、四本指の銅像を造った古代人と、過去、さまざまな人間がこの島の特殊性に惹かれてやってきた。彼らについては、ベンジャミン・ライナスやジュリエットのフラッシュバックや、会話のなかでしか説明されなかったが、ようやく詳しく描かれることになるのだ。

明らかになるのは、なにも島の歴史だけではない。「LOST」の物語世界において時間旅行が可能ということになれば、これまでに起きた不可思議な出来事について新たな角度から推理できるようになる。つまるところ、謎の核心へと大きく前進することになるのだ。

これまでの「LOST」では、恋愛ドラマやアクション、ミステリーなどの影に隠れて、そのSF的要素が注目されることはなかった。ひょっとすると、SFと認識したことのない人もいるかもしれない。しかし、シーズン5ではタイムトラベルが登場することもあって、SFが前面に押し出されることになる。量子力学やタイムパラドックスなど刺激的なテーマがつぎつぎと登場することになるが、なにもヒューマンドラマが忘れ去られたわけではない。「LOST」は、異常な状況に置かれた普通の人々の葛藤を描くドラマであり、シーズン5では「異常」の種類が変わるだけなのだ。物理学者のダニエル・ファラデイを中心に知的な会話が増えることになるが、無学なソーヤーやオタクのハーレーにも活躍の機会がたっぷりと与えられており、製作陣のこのあたりのバランス感覚は見事なものだと思う。

シーズン5を見る人には、これまでのエピソード(とくにシーズン1)を見直しておくことをお勧めする。シーズン5を見たとき、「あんなに前から仕掛けを用意してあったのか!」と、感激が倍増するはずだ。

LOST」は次のシーズン6で完結する。
いまは歴史に残るドラマをリアルタイムで鑑賞できる喜びを噛みしめて欲しい。

文/小西 未来

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