AXN的エミー賞大予想
7月8日に発表されたエミー賞のノミネートを受けて、海外ドラマに精通した方々およびAXNが、主要各部門の受賞作品・俳優を大胆に大予想!

予想者:小西 未来
LA在住のフィルムメーカー&ライター。大学卒業後、渡米。南カリフォルニア大学映画芸術学部で映画製作を学ぶ。カルチャー誌CUTや総合映画情報サイトeiga.comなどで執筆するかたわら、ブログ「Stolen Moments」では海外ドラマ情報を発信中。ドラマシリーズ部門 マッドメン
作品賞は「マッドメン」が放送開始から3年連続で受賞している。独走を止められるドラマは果たしてあるのだろうか?
注目は、米有料チャンネルHBOでスタートした2つの新ドラマだ。「ボードウォーク・エンパイア」は禁酒法時代のアトランティック・シティを描くギャングモノで、パイロット版の演出を巨匠マーティン・スコセッシ監督が手がけている。一方、「Game of Thrones」はSFファンタジー作家ジョージ・R・R・マーティンの「七王国の王座」のテレビドラマ化で、「トロイ」や「25時」の脚本家デイヴィッド・ベニオフが製作総指揮を務めている。いずれも独創的で質の高いドラマだが、「Game of Thrones」の受賞はほぼないと見る。「LOST」や「ギャラクティカ」を冷遇したことからも明らかなように、ATAS会員はSFやファンタジーを苦手としているからだ。となると、「ボードウォーク・エンパイア」が「マッドメン」のライバル候補となるわけだが、じっさいこれはいい勝負だ。いずれも過去を舞台にしたヒューマンドラマで、実在の出来事をストーリーに取り込むなど共通点も多い。実は「ボードウォーク・エンパイア」の製作総指揮テレンス・ウィンターは、エミー賞常勝ドラマ「ザ・ソプラノズ」の脚本家とプロデューサーを務めた経歴の持ち主。「マッドメン」の製作総指揮を務めるマシュー・ワイナーはかつての同僚であり、「ザ・ソプラノズ」の脚本を一緒に執筆した仲なのである。
スケール感では「ボードウォーク・エンパイア」の圧勝だ。なにしろスコセッシ監督が演出を手がけたパイロット版は、米テレビ史上最高の1800万ドルという大金が投じられており、トップ俳優を起用し、テレビドラマとは思えないほどのゴージャスな作りになっている。
しかし、「マッドメン」の優勢は変わらないと思う。ATAS会員のお気に入りドラマであるうえに、シーズン4に入って失速するどころか、サブテキストを幾重にも織り込んだ独自の物語世界に磨きがかかっているからだ。
主演男優賞 ジョン・ハム(「マッドメン」)
今年ノミネートされた男優にはビッグチャンスだ。これまで三年連続で主演男優賞を獲得したブライアン・クランストン(「ブレイキング・バッド」)がノミネートから外れたからである。審査対象期間に「ブレイキング・バッド」の新シーズンが放送されなかったためで、常勝俳優が欠場したことで面白くなった。
主演男優賞は、作品賞同様、「ボードウォーク・エンパイア」と「マッドメン」の一騎打ちとみる。
「ボードウォーク・エンパイア」のスティーヴ・ブシェミは、知名度を考えればもっとも受賞に近い。が、個人的には、「ボードウォーク・エンパイア」での役柄ははまり役だとは思っていない。「ビッグ・リボウスキー」や「ファーゴ」といったコーエン兄弟作品を見ても明らかなように、ブシェミが得意とするのは変わり者や小者であり、暗黒街を牛耳る男に必要とされる威厳が足りない気がするのだ。
一方、「マッドメン」のジョン・ハムは、ドン・ドレイパーというクールなキャラクター像ゆえに、その演技力が評価されることがなかった。しかし、シーズンが進むにつれて、その表層は自身が周到に作り上げたイメージであることが明らかになり、その苦悩に満ちた内面をさらけだすようになっている。これまでは作品や脚本だけが評価された「マッドメン」だが、今年は出演者もその貢献が認められると読むが、どうだろうか?
主演女優賞 ジュリアナ・マルグリーズ(「グッド・ワイフ」)
このカテゴリーも混戦だ。「ダメージ」のグレン・クローズや、「クローザー」のキーラ・セジウィックといった強敵が今年はいないからだ。
今年は「マッドメン」のペギー役のエリザベス・モスと、法律ドラマシリーズ「グッド・ワイフ」のアリシア役ジュリアナ・マルグリーズの一騎打ちとみる。
「マッドメン」のペギーは、60年代の男性社会のなかで成功の階段をあがっていく女性の象徴だ。かつてはドン・ドレイパーの秘書だった彼女が、いまでは広告案を巡り、ドンと激しく口論するまでに成長している。とくに、シーズン4「The Suitcase」では、素晴らしい演技を披露している。ただし、他の女優に比べて出演時間が短いので、助演女優賞でのノミネートのほうが良かったのではないかと思う。
一方、「グッド・ワイフ」のジュリアナ・マルグリーズはドラマを牽引するれっきとした主演であり、また、同キャラクターで2年連続で米俳優組合賞を受賞していることから、業界内での評価も高い。「ER緊急救命室」を含めてこれまで5回連続でエミー賞を逃していることもあって、このあたりでの授賞がふさわしいのではないかと見る。
助演男優賞 ジョン・スラッテリー(「マッドメン」)
主演男優賞部門と同様、昨年同賞を受賞したアーロン・ポール(「ブレイキング・バッド」)がノミネートから外れているので、面白い展開が期待できそうだ。
最有力は「マッドメン」のロジャー・スターリング役のジョン・スラッテリーだろう。かつては女好きの自信家だったロジャーだが、ほころびがみえて人間味を増している。テレビで長く活動してきた彼にとって、ロジャーはキャリアで最高の当たり役であり、授賞の価値は十分にある。
対抗は、「グッド・ワイフ」のアラン・カミングと、「Justified」のワルトン・ゴギンズというところか。「Justified」は昨年スタートした新ドラマで、とくに演技に対する評価が非常に高い。エルモア・レナードの小説に登場する連邦捜査官レイラン・ギヴンスを主人公にするクライムドラマで、現代を舞台にした西部劇のような演出になっているのが魅力だ。ゴギンスは、主人公の敵でありながら、手助けするミステリアスなキャラクターを演じている。
助演女優賞 ケリー・マクドナルド (「ボードウォーク・エンパイア」)
助演女優賞部門は一番の混戦だ。昨年は「グッド・ワイフ」のアーチー・パンジャビがサプライズ受賞しており、連続受賞の可能性もあるが、共演のクリスティーン・パランスキーも見事な演技を披露しているので、票が割れるかもしれない。「Justified」のマーゴ・マーティンデールも強敵だ。犯罪組織を牛耳る女ボスというおいしいキャラクターを、憎らしげに演じている。
悩んだあげく、「ブロードウォーク・エンパイア」のケリー・マクドナルドを押すことにした。テレビを中心に活躍する他の演技派と異なり、マクドナルドには「トレインスポッティング」、「ゴスフォード・パーク」、「ノーカントリー」といった華麗な映画出演歴があるからだ。










