62nd EMMY 2010年のエミー賞
・小西 未来

Meg Mimura
テレビ評論家。幼い頃から現実逃避の手段としてテレビにかじりついていた。青春ドラマと私立探偵モノで観たアメリカに憧れて、高校生でアメリカ留学を果たし、パイオニア精神を叩き込まれる。大学卒業後、合弁製薬会社2社で翻訳、通訳、重役秘書、病院製品コーディネーターを経た後、羽ばたく機会を求めて、サンディエゴに移住。州立大学でテレビ/映画について勉強し、修士号を取得したが、卒業後はビジネス・コンサルタントとしてバイオテク業界で生計を立てた。 2000年離婚を機に、本来の夢を実現しようとLAに。カリフォルニア在住の日本人に面白いテレビ番組を紹介して好評を博したため、三度の食事より好きなテレビへの熱い想いを伝えようと、テレビ評論家への道を切り開いた。テレビ評論家協会(TCA)会員として年2回開催されるPress Tour(新番組の内覧会)に参加する唯一の日本人。また、米国テレビ芸術科学アカデミー(ATAS)会員として、番組制作の裏話を聞く機会も多く、TV のメッカで肌で感じたことを報道。映画「Price for Peace」「SAYURI」「硫黄島からの手紙」にテクニカル・アドバイザーとして関与した他、Variety Japanのコラム連載、05年よりLAの雑誌「Lighthouse」にコラム連載、「TVFan」「海外TVドラマファイル」などに投稿。昨年は、エミー賞第二次選考委員を務めたばかりかエミー賞授賞式に参加、「Pushing Daisies」で日本語コーチ、4日間に60人のタレントの5分ビデオインタビューも体験。アメリカのテレビ業界について講演もしている。連日続いた、うだるような暑さと打って変わって、少々肌寒いほどの8月最後の日曜日。レッドカーペットには、おあつらえ向きの気候だ。リムジンの波も慣れっこになった4回目のエミー賞授賞式。これまで到着のタイミングで、会場に走れと言われたり、時間はたっぷりあるのに、ところてん式に押し込まれたり。4年目で勝手が解ってきたので、そそくさと会場に押し込まれまいと、車を降りてから、金属探知器に行き着くまで、あっちへふらり、こちらできょろきょろ。何しろ、今年は晴れ姿を見たい俳優が何人かいたので、探したのだが....
突然、目に飛び込んできたのは「MAD MENマッドメン」のクリスティーナ・ヘンドリックス。リムジンから降り立ち、藤色のイブニングドレスで、しゃなりしゃなりとレッドカーペットへ向かうところだ。折角の曲線美が、パステルカラーに飲み込まれて(そんなことがあるのかどうか知らないが)、ドレスだけが先行している感じ。来年は、原色を選んで欲しい。目を凝らすまで、気が付かなかったのは「ダメージ」のローズ・バーン。光の加減で、金髪に見えたからだろう。
一般用通路(レッドカーペットの外側)は比較的空いていたので、お目当ての俳優を探すも、今年も収穫ゼロ!一般客用の入口に向かう直前、「Temple Grandin」のプロデューサーの一人、俳優ギル・ベローズ(「アリーmyラブ」の初恋の相手ビリー役)が手持ち無沙汰そうに立っているのを目撃。「Temple Grandin」は大好きな作品なので、声をかけようかと思ったが、叫ぶのも何だし...と思っているうちに、例によって例の如く会場に押し込まれてしまった。
会場のロビーは、芋の子を洗う様な混雑。それでも、頑張って1周を達成。「LOST」のヘンリー・イアン・キュージック、「ナースジャッキー」のポール・シュルジー、ドミニク・フムーザ、「Glee」の脇役数人を目撃。「LOST」ファイナルシーズンで3話出演された真田さんと立ち話をさせていただいた。席についてみると、2列前にキュージック、ネスター・カーボネル、ダニエル・デイ・キムの3人が座っていることに気付いた。今年は例年よりステージに近かったが、通路を行き来する大物をチェックするには遠過ぎて、残念無念。「Top Chef」ご一行様の数列後ろだったので、エミーを受け取って席に戻り、関係者一同で喜びを分かち合っている姿を目撃、実に微笑ましかった。
司会は深夜のトークショーで活躍する、若手コメディアンのジミー・ファロン。歌って、踊って、冗談も交えた司会を厭味無くさらりとこなし、昨年のニール・パトリック・ハリスの白けっぱなしの進行と比べて、実にすっきりしていた。今年はNBCが趣向を凝らしていると聞いたが、「どれが趣向だったの?」と思うほど、贅肉を落として、軽々と3時間のマラソンを乗り切った感があり、無駄をばっさり切り捨てるテレビ業界を反映した式典だった。コメディーやドラマ各部門の過去1年のハイライト総集編も、候補作を中心に偏りがなく公平だった。とは言え、例年ケーブル局の作品はほとんど無視されていることは事実。昨年は、CBS作品ばかりを前面に押し出したプロモ的総集編や、自局作品からのプレゼンターばかりで、CBSのコマーシャルとしての最大限利用に、うんざりした。ヒット作がNBCに存在しないことは否めないが、食傷しないスマートな演出だったと言える。
今年完了した「24」「法と秩序」「LOST」三作への讃歌をファロンがエルトン・ジョン、ボーイズIIメン、ビリー・ジョー・アームストロングに扮して、替え歌で披露し、笑いを誘った。「24」にアフリカ系の初の大統領が登場したことに感謝したり、ジャックは一度もトイレに行ったことがないと茶化し、「法と秩序」のお陰でNYの俳優が潤ったこと、「LOST」ではマシュー・フォックスの物真似を聞かせてくれた。
しかし、受賞結果は番狂わせも良い所。あれだけ候補者にニューフェースが登場し、今年のテレビ芸術科学アカデミー(ATAS)は捨てたものではない!と期待していたが、コメディーとドラマでは「分裂病」的最終結果が出て、開いた口が塞がらない。コメディー最優秀作品賞は「Modern Family」、主演女優賞は「ナース・ジャッキー」のイーディ・ファルコ、助演は「Glee」のジェーン・リンチ、助演男優賞は「Modern Family」のエリック・ストーンストリートと新作の風が吹き荒れた。「ビッグバン★セオリー ギークなボクらの恋愛法則」のジム・パーソンズの主演男優賞のみが、本命と言われながら受賞できなかった昨年への応酬だ。
ドラマ部門の番狂わせは、助演女優賞が新人アーチー・パンジャービに贈られ、本命と言われていた「グッド・ワイフ」のジュリアナ・マーグリーズやベテラン女優クリスティーン・バランスキーが受賞を逃したこと。パンジャービは助演と言えども得体の知れない「謎のタフな女」を演じているが、「グッド・ワイフ」にそれほど貢献している女優とは言えない。唯一考えられるのは、映画「Slumdog Millionaire」以来、インド人が「時の人」だから?余談だが、今夏Food Network局で12人のシェフの中から勝ち抜き、料理番組を持たせてもらったのも、インド人女性だ。助演男優賞が「ブレイキング・バッド」のアーロン・ポールに贈られたことは、昨年受賞できなかったのは何故?と思った私に言わせると当然だが、穴馬中の穴馬だったので、これも番狂わせ。
3年連続受賞は「MAD MENマッドメン」とブライアン・クランストン。プレスルームでは、3年連続となると報道陣から質問が出ず、白けていたと聞く。ATAS俳優グループの皆さんに一言。「真面目に観てる?惰性で投票するのは止めて!」と言いたくなってしまうのは私だけではない。
主演女優賞候補に挙って5回目でやっとエミーを手にしたキーラ・セジウィックは、本命ではなかっただけに、仰天した様子だった。しかし、受賞スピーチでは、クリエイターのジェームズ・ダフに感謝の念を表し、ツボはしっかり押さえていたから、一応心づもりはあったのかもしれない。それとも、5年前から準備万端整えて、この機会を待っていたのだろうか?
AMCは来年5月まで「ブレイキング・バッド」を再開しないため、第63回のエミー賞には同作から出馬できないクランストンやポール。セジウィックの例もあるので、ヒュー・ローリーやカイル・チャンドラー、マイケル・C・ホールの3人は、引き続き候補に挙れば、まだ受賞の機会はある。
今回の授賞式で一番感激したのは、HBOの秀作「Temple Grandin」がテレビ映画部門のほとんどの賞を総嘗めしたことだ。本作を観ていない会場の観客は、「テンプル・グランディンって誰?」と、盛り上がっている一握りの関係者を遠巻きに、傍観している感がなきにしもあらず。幾多の苦難をモノともせず、立派に社会に貢献する高機能性自閉症者テンプル・グランディン博士の半生を描いた映画である。会場で何度も立ち上がって手を振っていたのが、コロラド州立大学の動物学教授であり、自閉症啓蒙活動に忙しいグランディン博士自身だ。テンプル役でエミー賞を受賞したクレア・デインズは、「自閉症への誤解や偏見を解くために、啓蒙活動をしてこられたグランディン博士に敬意を表します」と述べた。今回の受賞で、同作を観る人が増え、伝染病のように広がっている自閉症について対話が始まれば、今年もテレビという媒体の使命を果たしたことになる。
コメディー部門では、ほとんど予想が当たり、この調子でドラマも行ける!と意気込んでいたら、アーロン・ポールしか当たらない惨憺たる結果になった。しかし、「Temple Grandin」が部門の賞を総嘗めで、納得したり、がっくり来たり、喜んだりのジェットコースターに乗ったような3時間だった。

















