61st EMMY 2009年のエミー賞

9月20日(日)、プライムタイム・エミー賞の授賞式が行われました。会場は、昨年と同様、LAダウンタウンにあるノキア・シアター。スポーツとエンターテイメントの発信地として再開発されている地区の中心にある豪華なコンサートホールです。今年で第61回を数えるエミー賞には、ハイクオリティなドラマと豪華スターが集結。その見所をばっちりご紹介します。

名司会者、ニール・パトリック・ハリス

エミー賞に限らず、アメリカの授賞式中継の司会は経験豊かなコメディアンが務めるのが基本だ。適度な笑いで会場の雰囲気を盛り上げつつ、生放送につきもののアクシデントに対応できる点が起用の理由だろう。彼らのスムーズな進行のおかげで、格式と娯楽性を両立させたアメリカ的セレモニーが成立するのだが、あいにくコメディアンの多くはトーク番組の出身なので、米国外ではほとんど無名という難点がある。また、彼らが繰り出すジョークは時事ネタか業界ネタが主だから、日本で授賞式中継を見る人からすれば、「どうしてみんな笑っているのだろう?」と首を傾げる場面も少なくない。

しかし、今年のエミー賞授賞式ではそんな心配は無用だ。なにしろ、司会のニール・パトリック・ハリスは単なるコメディアンではない。「How I Met Your Mother」というコメディ・シリーズの人気者で、自身も助演男優賞部門(コメディ・シリーズ部門)にノミネートされているが、実はシリアスドラマもこなす演技派だ。さらにはミュージカルの経験も豊富だから歌も踊りも上手だし、ハリウッドにある奇術専門の会員制クラブ、マジック・キャッスルの役員を務めるほどの手品師でもある。まさに、マルチな才能の持ち主なのだ。

90年代前半にアメドラを見ていた人は、『天才少年ドギー・ハウザー』に出演していた天才子役として覚えているだろう。93年に番組が終了してからは、テレビや映画の端役をこなしながら、演劇の本場ブロードウェイでミュージカル劇(「レント」、「スウィーニー・トッド」)や舞台劇(「Proof」)に挑戦。業界でぬくぬくと育った他の子役出身俳優とはキャリアが違うのだ。また、誰からも愛される人柄で知られ、06年に同性愛者であることを公言したものの、人気は落ちるどころか急上昇。「How I Met Your Mother」では、ゲイであるにも関わらず、相変わらず女たらしのキャラクターを演じている。

今年のトニー賞授賞式に引き続き、大舞台を取り仕切ることになったニール・パトリック・ハリスは、多彩なスキルと愛くるしいキャラクターを武器に見事な司会ぶりを発揮。なかでも圧巻はオープニングだ。ミュージカル「ヘアスプレー」を手がけたマーク・シャイマン&スコット・ウィットマンによるオリジナル曲「Put Down the Remote(リモコンには触れないで)」を、得意の歌と踊りを披露。今年のアカデミー賞授賞式で司会をこなしたヒュー・ジャックマンにも匹敵するショーを展開してみせた。曲のクライマックスでは、エミー賞にノミネートされたすべてのテレビ局名を早口で読み上げるという見せ場があり、会場のボルテージははやくも最高潮。ノキア・シアターに詰めかけた満員の観客から拍手喝采を浴びた。翌日の新聞各紙はそろってニール・パトリック・ハリスの司会ぶりを絶賛。ぜひとも最高のショーを楽しんでもらいたい。

エミー賞に投げかける暗い影

冒頭の「Put Down the Remote」は軽快なミュージカルナンバーだが、実はエミー賞授賞式中継が直面する厳しい現実を反映している。この曲のテーマは、タイトルからも明らかなように、「とにかくチャンネルを変えないでください」という切実なものだ。どうして司会者はステージを縦横無尽に動き回りながら、声高に「リモコンには触れないで!」と訴えなくてはいけないのだろうか。

この背景には、エミー賞授賞式中継が三年連続で視聴率がダウンしているという現実がある。昨年ABCが放送した授賞式中継の視聴者数は1230万人と史上最低で、今年の視聴者数次第では、授賞式中継の放送形態が変わってしまう可能性があるのだ。

現在、エミー賞の授賞式中継は、CBS,NBC,ABC,FOXの4大ネットワークがローテーションで受け持っている(今年はCBS)。放送を手がける局は、エミー賞を主催するATASに700万ドルともいわれるライセンス料を支払う取り決めになっているのだが、来年のNBCの放送でATASとの現行契約が満了を迎えることから、再来年からネットワーク局がエミー賞中継から撤退する可能性が取り沙汰されているのだ。いまのエミー賞授賞式の放送形態を維持するためには、視聴率アップが命題である。だからこそ、今年のエミー賞では冒頭のミュージカルナンバーをはじめ、視聴率をネタにしたジョークが多い。たとえば、プレゼンターで登場したジュリア・ルイス=ドレイファス(「The New Adventures of Old Christine」)は、「ネットワーク局で放送される最後のエミー賞にようこそ!」と、自虐的なジョークで笑いを取っている。

では、どうしてアメリカでエミー賞授賞式の視聴率が落ちているのだろうか?

これには、最近のケーブル勢の隆盛が関与していると見られている。たとえば、昨年のエミー賞で話題となった「マッドメン」(AMC)、「Breaking Bad」(AMC)、「ダメージ」(FX)、「In Treatment」(HBO)といった作品は、すべてケーブル局で放送されているドラマである。これらのドラマは、批評家の評価は非常に高いものの、平均視聴者数は100万人から300万人程度。それに対し、「グレイズ・アナトミー」(ABC)や「DR.HOUSE」(FOX)といったネットワーク局の人気ドラマは、1500万人以上の視聴者を獲得している。つまり、アメリカの一般視聴者にとって、ケーブル局のドラマは馴染みのないものばかりなのだ。自分が知らない番組ばかりが受賞するので、授賞式中継からチャンネルを変えてしまうのである。この現象は、インディペンデント映画の隆盛とともに、視聴率が下降しているアカデミー賞授賞式中継と同じである。

つまりエミー賞授賞式中継の視聴率をアップさせるもっとも単純な方法は、人気者に賞を授ければいいということになる。

さて、エミー賞に投票するATAS会員はどんな決断を下したのだろうか?

またもケーブル勢の大勝利

蓋を開けてみれば、「マッドメン」の作品賞と脚本賞(ドラマ・シリーズ部門)をはじめ、「Breaking Bad」のブライアン・クランクストン(ドラマ・シリーズ部門主演男優賞)、「ダメージ」のグレン・クローズ(ドラマ・シリーズ部門主演女優賞)と、昨年と同じメンツにATASは投票した。エミー賞は人気投票ではないことを、改めて示した形である。

ネットワーク局のドラマは、高視聴率を武器に高い製作費がつぎ込まれる一方、広い視聴者層に訴えなくてはいけないので、概してメインストリームな作風になりがちだ。逆に、ケーブル局のドラマは製作費ではネットワークには敵わないから、野心的な作風で対抗する。また、ケーブル局のドラマはシーズンあたりの製作本数がネットワーク局の半分程度なので、それだけ高いクオリティのものを生産できるという利点もある。ATAS会員は、その質と野心の高さゆえに、ケーブル局のドラマをより高く評価しているのだ。

ただし、ケーブル局だからといって偏重しているわけではないようだ。たとえば、ABCが放送する「LOST」のマイケル・エマーソンに、初の助演男優賞を授賞している。「LOST」は、ネットワーク局で放送されてはいるものの、分かりやすい番組が求められるアメリカにおいては、高視聴率番組とはいえず、どちらかといえばカルト番組である。そんな番組でも、マイケル・エマーソンの才能を認め、賞を授与するのはさすがだ。なにしろ、エマーソンは「ヘンリー・ゲイル」役として数回の出演予定だったが、そのあまりの怪演ぶりに、製作側がキャラクターの基本設定を変更してしまったほどの個性の持ち主である。彼が演じる「ベンジャミン・ライナス」は、「LOST」の物語世界のなかでも最重要キャラクターだ。

また、「プッシング・デイジー~恋するパイメーカー~」のクリスティン・チェノウェスの助演男優賞(コメディ・シリーズ部門)も嬉しいサプライズだ。同番組はABCで放送されていたものの、低視聴率を理由にシーズン2で惜しくも打ち切られている。濃いキャラクターだらけの出演陣のなかでも、ひときわ異彩を放っていたチェノウェスの貢献をきちんと評価したのは感心だ。

人の好みはそれぞれだし、ATASの嗜好もはっきりしているから、受賞結果に文句がある人もいるだろう。ただし、彼らが視聴率ではなく、品質にこだわっていることだけは否定しようがない事実だ。3年連続で作品賞を受賞した NBCのコメディ・シリーズ部門「「30 Rock」にしても、実は低視聴率に喘いでいる。エミー賞は非常にフェアなのだ。

エミー賞の今後

ケーブル勢がまたも大勝利を収める受賞結果となったものの、今年のエミー賞中継の視聴者は1330万人と昨年より8.1%アップ。最大の功労者は、やはり司会を務めたニール・パトリック・ハリスだろう。なにしろ、他局は、同時間帯にNFL中継(NBC)や、「アントラージュ」(HBO)、「マッドメン」(AMC)を放送していたのだから。

ただし、これで問題が解決したわけではない。来年、エミー賞を放送するNBCは、放送権を持つNFL中継との兼ね合いで、エミー賞を8月に前倒しする公算が高い。前回、NBCが8月にエミー賞を実施したときは、前年より視聴者が300万人も減少したという。いかに優れた司会者を起用しても、このハンデを覆すのは難しそうだ。
きっと来年のエミー賞も、視聴率が大いに注目されることになるだろう。

ただし、日本の視聴者にとってみれば、アメリカにおける視聴率など実はどうでも良かったりする。アメリカの高視聴率番組は、アメリカ人の嗜好や生活習慣などを反映させたものであり、日本人の好みに必ずしも合致するわけではないからだ。今年のエミー賞にノミネートされた作品群はまさにベスト・オブ・ベストであり、日本の海外ドラマファンにも容易に理解できるものだ。今回のエミー賞授賞式をきっかけに、新しいドラマに挑戦してみてはいかがだろうか?

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